あなたの草刈りがこれほどまでに過酷で重労働なのは、実はあなたの体力のせいではなく、使っているその「道具」のせいかもしれません。
こんにちは。庭と暮らす、日々のこと、運営者の「ゆう」です。
かつての私も、ホームセンターのワゴンセールで買った数百円の鎌を使い、「草刈りなんてこんなものだ」と汗だくになりながら諦めていました。
しかし、すぐに切れなくなり、力任せに引いては刃こぼれし、毎年のように買い替える……そんな「安物買いの銭失い」のループに陥っていたのです。
ある日、知人の庭師さんが使う「本物の鎌」を借りたとき、その衝撃は忘れられません。
力を入れずとも、草が「吸い込まれるように」切れていく感覚。それは、私の知っている草刈りとは全く別の体験でした。
インターネットや専門書で情報を集めると、そこには最強の切れ味を誇る手打ちの高級品や、正しい研ぎ方を覚えれば一生使える、日本の鍛冶技術の結晶が存在することを知りました。
この記事では、私が徹底的に調べ上げた鋼の種類による科学的な違いや、各産地が誇る職人技、そして失敗しないブランド選びまで、高級草刈り鎌の奥深い世界を余すところなく紹介していきます。
- 安来鋼の青紙や白紙など素材による切れ味の違いがわかる
- 信州や土佐など産地ごとの特徴を知り自分に合う鎌が選べる
- 長く使うための研ぎ方やサビ対策などメンテナンス方法がわかる
- 用途に合わせた刃の厚みや柄の長さの選び方が明確になる
高級な草刈り鎌を選ぶための基礎知識

「高級」といっても、単に値段が高い装飾品のようなものを指すわけではありません。ここで言う高級とは、極限まで機能を追求した結果として生まれた「機能美」と、それを支える「素材と技術」の対価です。使われている素材のグレードや、その背景にある製造プロセスを知ることで、なぜその鎌が数千円、あるいは一万円以上するのか、そしてなぜそれが結果として「安い」買い物になるのかが見えてきます。ここでは、一生の相棒となる失敗しない鎌選びのために知っておきたい、プロレベルの基礎知識を整理しました。
青紙や白紙など鋼材の種類と違い
高級な鎌を選ぶときにまず最も注目すべきなのが、刃の命とも言える「鋼(ハガネ)」の種類です。日本の高級刃物が世界中で賞賛される理由の一つに、島根県安来市にあるプロテリアル(旧・日立金属)で製造されている「安来鋼(やすきはがね)」という最高級刃物鋼の存在があります。これは、あのかの有名な日本刀の原料である「玉鋼(たまはがね)」の製造技術を、現代の冶金学で進化させた素晴らしい素材なんです。
カタログやスペック表でよく目にするのが「青紙(あおがみ)」や「白紙(しろがみ)」という名称ですが、これらは実際に紙ができているわけではなく、工場で区別するために貼られたラベルの色に由来しています。しかし、その中身は全くの別物。それぞれの化学成分や特性を理解することで、自分の作業スタイルに最適な一本が見えてきます。
| 鋼材名 | 成分特性 | 物理的特徴 | おすすめのユーザー |
|---|---|---|---|
| 青紙 (青紙2号・スーパー) | 高純度な炭素鋼に、タングステン(硬度向上)とクロム(粘り向上)を添加した合金鋼。 | 非常に硬度が高く(HRC60以上)、摩耗に極めて強い。一度研げば、驚くほど長期間切れ味が持続する「長切れ」性能を持つ。 | プロの農家、造園業者。硬い草や長時間の連続作業を行う方。頻繁な研ぎ直しを面倒に感じる方。 |
| 白紙 (白紙2号) | リンや硫黄などの不純物を極限まで取り除いた、純粋な炭素鋼。 | 不純物が少ないため、研ぎ味が非常に良く、カミソリのように鋭利で繊細な刃がつく。切れ味の純度は最高峰。 | 柔らかい春草や芝をスパッと刈りたい方。自分で砥石を使って研ぐ「道具の手入れ」を楽しみたい愛好家。 |
| 黄紙 (黄紙2号) | 白紙に比べて不純物がやや多いが、製造コストが抑えられている。 | 一般的な手打ち鎌に使用される標準的な鋼。研ぎやすく扱いやすいが、青紙や白紙に比べると切れ味の持続性は劣る。 | 家庭菜園初心者や、まずは手打ち鎌の良さを手頃な価格で体感してみたい方。 |
もう少し深掘りしてみましょう。「青紙」に含まれるタングステンは、非常に硬い炭化物を形成するため、摩擦に対して圧倒的な強さを誇ります。砂混じりの草や、繊維の強い雑草を長時間刈り続けても、刃先が丸くなりにくいのです。特に「青紙スーパー」と呼ばれるグレードは、その名の通りスーパーな硬度を持っていますが、その分、研ぐときには少しコツがいります。
一方、「白紙」は純粋がゆえに、鍛冶職人の腕がストレートに試される素材です。適切な熱処理が施された白紙の鎌は、植物の繊維を「断ち切る」というよりは、細胞の間を「滑り抜ける」ような、恐ろしいほどの切れ味を発揮します。ただし、サビやすさも一級品なので、こまめな手入れができる人向けとも言えますね。
個人的な結論としては、実用性と効率、そして切れ味の持続性を最重視するなら「青紙」、研ぎの楽しさと究極の鋭さを追求するロマン派なら「白紙」という選び方が、後悔のない選択になるかなと思います。どちらを選んだとしても、ホームセンターのプレス鎌とは次元の違う世界が待っていますよ。
信州や土佐など産地別のおすすめ
日本という国は南北に長く、地域によって気候も植生も全く異なります。そのため、それぞれの土地で使いやすいように独自の進化を遂げた刃物が存在します。これをワインの世界のように「テロワール(風土)」と呼ぶ愛好家もいるほどです。産ごとの特徴を知ることは、自分の住んでいる環境や刈り取る対象にベストマッチする鎌を見つける近道になります。
私がリサーチし、実際に手に取ってみて特に素晴らしいと感じたのは、以下の日本の4大鎌産地です。
1. 信州(長野県):薄刃と軽量化の芸術
信州鎌は、私が最も感動した鎌の一つです。最大の特徴は、とにかく「薄い」こと。「芝・薄鎌」とも呼ばれ、刃の厚みは極限まで薄く作られていますが、それだと強度が足りなくなりますよね?そこで信州の職人は、刃に独特の「反り(ソリ)」と「キャンバー(ふくらみ)」を持たせることで、薄いながらもペラペラしない、構造的な強度を実現しているんです。柔らかい草を、撫でるように刈り取る感覚は信州鎌ならではの特権です。
2. 播州(兵庫県):カミソリ鍛冶の系譜
兵庫県の小野・三木エリアで作られる播州鎌は、別名「カミソリ鎌」とも呼ばれます。その名の通り、カミソリのような切れ味が自慢ですが、注目すべきは「スキ仕上げ」という技術です。刃の裏側を少し凹ませるように削ることで、物理的に刃を薄くし、草への食い込みを良くしています。さらに、この凹みがあることで、研ぐときに砥石が当たる面積が減り、非常に研ぎやすくなるというメリットもあります。実用性を極めた工業的な美しさがありますね。
3. 越前(福井県):700年の歴史と美学
約700年もの歴史を持つ越前打刃物は、その切れ味もさることながら、美術品のような美しさが魅力です。「二枚広げ」という、二枚の刃を重ねて叩くことで薄く延ばす独自の技法や、「泥沸かし」という鍛接技術など、高度な職人技が詰まっています。贈り物としても喜ばれる気品があります。
4. 土佐(高知県):森を切り拓く剛健さ
林業が盛んな高知県で育まれた土佐打刃物は、他の産地に比べて「厚くて丈夫」なのが特徴です。山林の下草刈りや、篠(シノ)、ツルなどが絡まる過酷な現場で使われることを想定しており、「自由鍛造」という枠にとらわれない製法で、多種多様な形状の鎌が作られています。黒い酸化皮膜をあえて残した「黒打ち」仕上げが多く、無骨で男らしいデザインが好きな方にはたまりません。
伝統的工芸品としての信頼
これらの産地の多くは、国から「伝統的工芸品」としての指定を受けています。これは単なるブランドではなく、100年以上の歴史と技術が公的に認められた証です。
(出典:一般財団法人 伝統的工芸品産業振興協会『伝統的工芸品 指定品目一覧』)
自分のフィールドが、柔らかい草中心の庭なら「信州」や「播州」、硬い雑草やちょっとした藪があるなら「土佐」というように、産地の特性を用途に合わせて選ぶのが、プロの選び方です。
職人が作る手打ち鎌の最強の切れ味
「たかが草刈り鎌に、手打ちなんて必要あるの?」と思われるかもしれません。しかし、ホームセンターで数百円で売られている量産品と、職人が作る手打ち鎌の間には、決定的な物理的・科学的な違いが存在します。
安価な鎌の多くは、「プレス加工(型抜き)」で作られています。これは、大きな鉄板からクッキーの型抜きのように鎌の形をくり抜いて、刃を付けただけのものです。コストは安く済みますが、金属の組織はそのままであるため、耐久性や切れ味の限界は早い段階で訪れます。
対して、高級な鎌は「鍛造(たんぞう)」というプロセスを経て作られます。真っ赤に熱した鉄と鋼を、職人がハンマーで何度も何度も叩き(鍛錬)、形作っていきます。この「叩く」という行為には、単に形を作る以上の重要な意味があるんです。
鍛造(手打ち)がもたらす3つの科学的メリット
- 組織の微細化:叩くことで金属内部の結晶粒子が細かくなり、密度が高まります。これにより、欠けにくく粘り強い刃になります。
- 炭化物の球状化:鋼の中にある硬い炭化物が均一に分散し、切れ味のムラがなくなります。
- 脱炭の防止と不純物の放出:叩くことで余分な不純物が押し出され、純度の高い強靭な鋼へと進化します。
特に私が感動したのは、「総火造り(そうひづくり)」と呼ばれる技法です。これは、最初から鎌の形をした材料を使うのではなく、一本の鉄の棒や角材から、ハンマー一本で叩き広げて鎌の形にしていく究極の技術です。この技法で作られた鎌は、刃先は鋭く薄いのに、力の加わる首元(コミ)は厚く丈夫で、手にした瞬間の重心バランスが完璧なんです。「道具が手の一部になる」という感覚は、この総火造りの鎌で初めて味わいました。
また、高級鎌の多くは、硬い「鋼(ハガネ)」と、衝撃を吸収する軟らかい「地金(ジガネ)」を張り合わせた「複合材(利器材や付け鋼)」で作られています。すべてが硬い鋼だと、衝撃でポキッと折れてしまいますが、軟鉄が背中を支えることで、折れず・曲がらず・よく切れるという矛盾した性能を両立させているのです。これは日本刀と同じ構造であり、世界に誇る日本のハイテク技術なんですよ。
豊稔企販などのブランドと選び方
産地や製法がわかってきたところで、具体的に「どこのメーカーの何を買えばいいの?」という疑問に答えていきましょう。Amazonや楽天などのネット通販でも高級鎌は購入できますが、信頼できるブランドを知っておくことで、ハズレを引くリスクを劇的に減らすことができます。
私が自信を持っておすすめできる筆頭ブランドは、兵庫県三木市に拠点を置く「豊稔企販(ほうねんきはん)」さんです。ここは、普及品から最高級の手打ち品まで幅広く手がけていますが、特に注目すべきは「光山作(こうざんさく)」と銘打たれたシリーズです。安来鋼の青紙2号を使用したモデルなどは、プロの造園業者からも絶大な信頼を得ています。品質管理が徹底されており、通販で購入しても「刃付けが甘い」といった個体差が非常に少ないのが安心ポイントです。
次に紹介したいのが、同じく播州の「竹本鎌製作所」さん。ここの鎌は、伝統技術を守りながらも、現代のユーザーに寄り添った革新的な製品が多いのが特徴です。例えば、人間工学に基づいて設計された「R刃」形状の鎌は、手首を返さずに自然なスイングで草を捉えることができ、長時間の作業でも疲れにくい設計になっています。また、柄にウォールナット材を使用したおしゃれな「sakle」シリーズなど、デザイン性に優れた鎌も展開しており、若いガーデナーにもおすすめです。
もう少しマニアックな、一点モノに近い感覚を味わいたいなら、福井県の「岡田打刃物製作所」や高知県の「宗石工房」が素晴らしいです。これらは「鍛冶屋」という言葉がふさわしく、職人さんが一本一本手作業で仕上げています。特に宗石工房さんの青紙スーパーを使用した鎌は、まるで猛獣のような切れ味で、硬い藪でもバリバリと切り開いていけます。
失敗しない選び方のフローチャート
- 用途を決める:柔らかい草中心か(薄鎌)、硬い草や小枝も切るか(厚鎌)。
- メンテナンス頻度を考える:研ぎを楽しめるなら「鋼(青紙・白紙)」、管理を楽にしたいなら後述する「ステンレスクラッド」。
- レビューを確認する:特にAmazonや楽天では、「切れ味が戻らない」「すぐに欠けた」といったネガティブレビューがないかチェックしましょう。高級鎌の場合、良いレビューには「研ぐと化けた」「20年使っている」といった具体的な体験談が多いのが特徴です。
ブランド鎌は、パッケージを開けた瞬間の美しさや、柄に刻印された焼印の風合いなど、所有欲を満たしてくれる要素も満載です。「いい道具を持っている」という事実だけで、週末の草刈りが待ち遠しくなる。そんな魔法がブランド鎌にはあります。
手入れが楽な高級ステンレス鎌
「鋼の鎌の切れ味が凄いのはわかった。でも、ズボラな私にはサビ管理ができそうにない…」「雨上がりに使うことも多いし、真っ赤に錆びさせるのが怖い」
そんな不安をお持ちの方、安心してください。現代の冶金技術は進化しており、「サビに強くて、かつ鋼のように切れる」という夢のような素材が登場しています。それが、V金10号(VG10)などに代表される「高級ステンレス鋼」です。
従来の安いステンレス鎌は、「錆びないけれど切れない」「すぐに刃が丸くなる」というのが定説でした。しかし、高級ナイフや高級包丁にも使われるV金10号などの素材は、高炭素ステンレスと呼ばれ、鋼に匹敵する硬度を持っています。これを芯材(刃先)に使用し、両側をより錆びにくいステンレスで挟み込んだ「ステンレスクラッド(三層鋼)」構造の鎌が、今のトレンドになりつつあります。
高級ステンレス鎌(ステンレスクラッド)の3大メリット
- 圧倒的な耐食性:使用後に水洗いして拭いておけば、油を塗らなくてもほとんど錆びません。湿気の多い倉庫での保管も安心です。
- 鋼に迫る切れ味:炭素を多く含むため、従来のステンレスとは別次元の「食いつき」の良い切れ味を実現しています。
- 見た目の美しさ:いつまでも銀色に輝く刃は、道具としての清潔感があり、使うたびに気持ちが良いものです。
例えば、豊稔企販の「金光山作 高級ステンレス鋼鎌」などは、このタイプの名品です。もちろん、全く研がなくて良いわけではありませんが、鋼の鎌のように「使っている最中から変色してくる」ような神経質さはありません。
ただし、デメリットも正直にお伝えしておきます。ステンレスは粘りがあるため、研ぐ際に「カエリ(バリ)」が取れにくく、研ぎの感覚が鋼とは少し異なります。砥石の上を滑るような感覚があるかもしれません。それでも、「メンテナンスの気楽さ」と「実用的な切れ味」のバランスにおいて、高級ステンレス鎌は現代のライフスタイルに最も適した選択肢の一つと言えるでしょう。「道具に気を使いたくないけれど、切れ味には妥協したくない」というワガママな願いを叶えてくれる一本です。
高級草刈り鎌を長く愛用する技術

良い道具を手に入れたら、それを長く大切に使いたいですよね。高級な鎌は「使い捨て」ではなく、メンテナンスをして「育てていく」ものです。新品の時よりも、自分の手で研ぎ上げた時のほうがよく切れる。そんな体験をすると、もう後戻りはできません。
ここでは、私が実践しているメンテナンス方法と、さらに深い鎌の使い分けについて、初心者の方にもわかりやすく解説します。
砥石を使用した正しい研ぎ方の手順
「鎌を研ぐ」と聞くと、「職人さんのような難しい技術が必要なんじゃないか?」「角度を間違えて切れなくしてしまったらどうしよう」と不安に感じるかもしれません。実は、私も最初はそうでした。包丁研ぎですら苦手だった私が、今では草刈りの前にササッと鎌を研ぐのがルーティンになっています。なぜなら、鎌の研ぎ方は包丁よりもずっとシンプルで、直感的だからです。
まず、準備する道具は「中砥石(粒度 #800〜#1200程度)」が一つあれば十分です。ホームセンターで売っている「鎌砥石」というハンディタイプのもので構いません。荒砥石や仕上げ砥石は、刃が大きく欠けたり、鏡面仕上げにしたいというこだわりが出てきてからで大丈夫です。
鎌研ぎの最大の特徴であり、包丁と決定的に違う点は、「鎌を固定して、砥石の方を動かす」というスタイルです。鎌の刃は湾曲しているので、固定した砥石の上で鎌を動かすのは非常に難易度が高いのです。
失敗しない鎌研ぎの4ステップ
- 固定のポーズを決める:
しゃがみ込み、鎌の柄の付け根付近を足の裏で踏むか、膝で挟んでしっかり固定します。刃がグラグラしないことが最も重要です。安定した台がある場合はクランプで固定するのもおすすめです。 - 砥石に水を吸わせる:
乾いた砥石でこすると熱を持ち、刃を傷めます。バケツの水に浸し、気泡が出なくなるまで十分に水を吸わせてください。 - 表面(角度がある方)を研ぐ:
ここがポイントです。刃のカーブに沿って、砥石を小さく円を描くようにクルクルと回しながら、あるいは刃に対して斜めに前後させながら研いでいきます。一度に全体を研ごうとせず、3cmくらいの幅で少しずつ場所をずらしていくのがコツです。 - 裏面でバリを取る:
刃先を指で触ってみて(切らないように注意!)、裏側に「バリ(カエリ)」と呼ばれる金属のザラつきが出ていれば、研げている証拠です。最後に裏面を、砥石をベタッと平らに当てて軽く2〜3回こすり、このバリを取り除けば完成です。
ここで一つ、絶対に守ってほしいルールがあります。それは、「裏面を研ぎすぎないこと」です。日本の鎌(特に片刃)は、裏面が少し窪んでいたり、平らになっています。ここをガリガリ研いでしまうと、刃先の強度が極端に落ち、すぐに刃こぼれする「ナマクラ」になってしまいます。裏はあくまで、めくれたバリを取るための「仕上げ」と割り切ってください。
研ぎ終わった鎌で草を刈った瞬間、「シャッ」という音と共に抵抗なく草が倒れる感覚は、病みつきになりますよ。
道具を育てる日々のメンテナンス
研ぎと同じくらい、あるいはそれ以上に大切なのが、使い終わった直後のケアです。高級な鋼(ハガネ)の鎌にとって、最大の敵は「水分」と「草の渋(シブ)」です。これらを放置すると、一晩で真っ赤なサビが発生し、最悪の場合、金属が虫食いのように腐食する「孔食(こうしょく)」を起こしてしまいます。
私が畑から戻って必ず行っている「3分間メンテナンス」をご紹介します。これを習慣にするだけで、鎌の寿命は10年も20年も変わってきます。
- タワシで豪快に洗う:
作業が終わったら、まずは水洗いです。刃についた泥や、草の汁をタワシでゴシゴシと洗い落とします。特に刃の付け根部分は汚れが溜まりやすいので念入りに。 - 乾いた布で拭き上げる:
ここが最重要工程です。洗ったまま自然乾燥させるのは絶対にNGです。要らなくなったTシャツの端切れなどで、水分を完全に拭き取ります。 - 油の膜を作る:
乾燥した刃に、薄く油を塗ります。私は「刃物用椿油」を愛用していますが、無ければミシン油や、最悪の場合は食用油(酸化しやすいので長期保管には不向きですが、一時的にはOK)でも構いません。ティッシュに数滴垂らして、刃全体を拭くように塗り広げます。これで空気中の酸素と水分を遮断します。
もしサビが出てしまったら?
どんなに気をつけていても、うっかりサビさせてしまうことはあります。そんな時は、慌てずに「サビトール」のような消しゴム型の研磨剤や、クリームクレンザーを使ってこすり落としましょう。初期の赤サビならすぐに落ちます。黒サビ(酸化皮膜)まで進行している場合は、あえて落とさずに「味」として楽しむのも、道具好きの流儀です。
使い込まれて柄が手の形に馴染み、刃が研ぎ減って少し小さくなった鎌は、新品にはない凄みと美しさを纏います。これを「道具が育つ」と言います。ぜひ、あなただけの一本を育ててみてください。
硬い草や篠を刈るための厚鎌
庭の手入れをしていると、柔らかい雑草だけでなく、まるで木のように硬い茎を持つセイタカアワダチソウや、竹の仲間である篠(シノ)、あるいは葛(クズ)の太いツルなどに遭遇することがあります。これらを、先ほど紹介した「信州鎌」のような薄い刃で無理やり切ろうとすると、どうなるでしょうか?
答えは、「刃が欠ける(チップする)」か「刃が捻じれて使い物にならなくなる」です。これは道具が悪いのではなく、「適材適所」の選択ミスです。
硬い相手には、それに負けない質量と角度を持った「厚鎌(中厚鎌)」や「木鎌(きがま)」を選ぶ必要があります。特に、林業の現場で鍛えられた土佐打刃物には、この手の頑丈な鎌のラインナップが豊富です。
| 種類 | 刃の特徴 | 得意なターゲット | 使い方のコツ |
|---|---|---|---|
| 薄鎌(草刈り鎌) | 紙のように薄く鋭利。 | 春の柔らかい草、芝生。 | 力を入れず、撫でるように引いて切る。 |
| 中厚鎌 | 薄鎌と厚鎌の中間。汎用性が高い。 | 夏場の太い雑草、ススキ、ヨモギ。 | 手首のスナップを利かせて刈る。 |
| 厚鎌(木鎌・造林鎌) | 刃が分厚く、重量がある。両刃が多い。 | 篠(シノ)、小枝、ツル、竹。 | 鎌の重さを利用して、叩き切るように振る。 |
厚鎌は、持った瞬間に「ズシリ」とした重みを感じます。しかし、この重さこそが武器になります。腕の力で引くのではなく、鎌の重さを遠心力に乗せて、対象物に「ガツン」とぶつけるようにして切るのです(これを「払い切り」と言います)。
もしあなたの管理する土地が、柔らかい庭草だけでなく、荒れ地や山林に近い環境を含んでいるなら、薄鎌一本ですべて賄おうとせず、必ずこの「厚鎌」を一本用意してください。作業効率が倍になるだけでなく、大切な薄鎌を壊さずに済みます。
立ったまま作業できる柄の長い鎌
しゃがんでの草刈り作業は、30分も続ければ腰が悲鳴を上げ、膝がガクガクしてきますよね。私も以前は「草刈り=腰痛との戦い」でした。しかし、この問題を物理的に解決してくれる素晴らしい道具があります。それが、柄の長い「長柄鎌(ながえがま)」や「立鎌(たちがま)」です。
通常の鎌の柄が30cm〜45cm程度なのに対し、長柄鎌は120cm〜150cmほどの長さがあります。これにより、立ったままの自然な姿勢で、まるでホウキで掃くように、あるいはゴルフのスイングのように草を刈ることができるのです。
特に「昇り鎌(のぼりがま)」と呼ばれるタイプや、刃の角度が工夫された「長柄刈払鎌」は、広範囲の草刈りに絶大な威力を発揮します。電動の草刈り機(刈払機)は重いし、燃料の管理や騒音が怖い…という方には、この長柄鎌が最高の選択肢になります。エンジン音がしないので、早朝の涼しい時間に作業しても近所迷惑になりません。
柄の材質選びも重要:朴(ホオ)vs 樫(カシ)
長柄の鎌を選ぶときは、柄の材質にも注目してください。
- 朴(ホオ):非常に軽く、手触りが柔らかい。長時間の作業でも腕が疲れにくいので、女性や年配の方、柔らかい草を刈るのにおすすめです。
- 樫(カシ):重くて硬く、非常に丈夫です。ハードな使用に耐えるので、厚鎌でバシバシ叩き切りたい場合や、体力に自信がある方向けです。
私は、普段の庭のちょっとした草刈りには軽い朴の柄のものを使い、裏山の篠を刈るときは樫の柄の頑丈なものを使う、というように使い分けています。「立ったまま作業ができる」というだけで、草刈りに対する心理的なハードルが劇的に下がりますよ。
よくある質問(Q&A)

最後に、高級な草刈り鎌に興味を持った方からよくいただく質問をQ&A形式でまとめました。購入前の疑問解消に役立ててください。
- 左利きなのですが、普通の鎌を使っても大丈夫ですか?
-
いえ、普通の鎌(右鎌)を左手で使うのはおすすめできません。鎌は刃の角度や柄の取り付けが右利き用に最適化されているため、左手で使うと草がうまく切れず、危険でもあります。でも安心してください。豊稔企販さんや土佐の鍛冶屋さんなど、本格的なメーカーの多くは「左利き用(左鎌)」もしっかりラインナップしています。購入の際は必ず「左用」と表記があるものを選んでくださいね。
- 高級な鎌はどのくらいの頻度で研ぐ必要がありますか?
-
理想を言えば、使うたびに軽く研いであげるのがベストです。「切れなくなったから研ぐ」のではなく、「切れ味を維持するために研ぐ」という感覚ですね。毎回ガッツリ研ぐ必要はありません。作業前にハンディ砥石でササッと数回なでてあげるだけでも、驚くほど切れ味が持続しますよ。こまめなケアが長持ちの秘訣です。
- 自分で研いで刃の形がおかしくなってしまったら、もう使えませんか?
-
諦めるのはまだ早いです!使い捨ての安価な鎌とは違い、高級な手打ち鎌の良いところは「修理ができる」ことです。製造元のメーカーや、地域の刃物専門店に相談すれば、有料で「研ぎ直し」や「形直し」をしてくれることが多いです。プロの手にかかれば、見違えるように切れるようになって戻ってきます。困ったらプロに頼るのも賢い選択ですよ。
- ネット通販で買うときに気をつけるポイントはありますか?
-
「柄の長さ」をよく確認することをおすすめします。写真だけだとサイズ感が分かりにくいのですが、届いてみたら「柄が長すぎて使いにくい」とか「短すぎて腰が痛い」なんてことも。しゃがんで使うなら30cm〜45cm前後、立って使うなら120cm以上が目安です。手元にメジャーを用意して、実際の長さをイメージしてからポチると失敗が少ないかなと思います。
高級な草刈り鎌で農作業を楽しむ
ここまで、高級な草刈り鎌の選び方、メンテナンス、そして使い分けについて、私の経験を交えてかなり詳しくお話ししてきました。これだけの長文を読んでくださったあなたは、きっと「ただ草がなくなればいい」とは思っていない、道具に対する愛情とこだわりを持った方だと思います。
たかが鎌、されど鎌。
ホームセンターで数百円で買えるものに、数千円、あるいは一万円以上のお金を出すのは勇気がいることかもしれません。しかし、職人さんが赤く焼けた鉄と向き合い、汗を流して鍛え上げた「本物」には、価格以上の価値が確実に宿っています。
朝露に濡れた草むらに立ち、研ぎ澄まされた刃を一閃させる。手に伝わる確かな感触と、抵抗なく倒れていく草。そこには、単なる「労働」を超えた、スポーツのような爽快感と、自分の手で環境を整えていく充実感があります。
良い道具は、使い手の技術を引き上げてくれます。そして、適切な手入れをすれば、親から子へ、子から孫へと受け継ぐことだってできる耐久性を持っています。トータルで見れば、これほどコストパフォーマンスの高い道具は他にないかもしれません。
ぜひあなたも、一生を共にできる「最高の相棒」を見つけてください。その一本が、あなたの庭仕事の時間を、より豊かで楽しいものに変えてくれることを約束します。
